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品質と音量quality and volume

 最近は、若い方を中心に持ち運びに便利な再生機器である携帯音楽プレーヤーでイヤフォンを使って音楽を聴く人が多くなりました。また、若い方に人気のポップスは比較的音圧レベルの変化が小さく、ダイナミックレンジの小さな曲が多いようです。
 その結果、携帯音楽プレーヤーに大量の曲を収録したいという要望から音声ファイルのデータ量を圧縮したmp3形式の音声ファイルとして提供して欲しいという要望が多くなって来ました。

 携帯音楽プレーヤーで再生してイヤフォンで音楽を聴く場合、再生装置の能力的な限界から音声データの微妙な表現はあまり意味がありません。また、屋外という多くの音に囲まれた環境で音楽を聴く場合には、微妙な音の変化よりもはっきり聴こえることのほうが重要になっているようです。当サービスに対して、『もう少し音量を大きく出来ないですか?』という要望が寄せられることがあります。
 レコード盤に記録されている音は原音を録音したそのままの音ではなく、既にその楽曲に最適な状態に調整・編集され作品として完成された状態です。当サービスでは原盤の音を出来るだけ忠実に再現するために、デジタル録音した音声データの最大値が記録できる最大の信号の大きさに一致するように正規化して、全体としてのダイナミックレンジを最大にするように調整しています。

ダイナミックレンジと音声波形

 一般的にダイナミックレンジの大きな楽曲、例えばオーケストラの演奏の場合、最大音量は同じでも平均的な音量は相対的に小さくなる傾向にあります。再生装置のボリュームをポップスを再生して調度よい音量に調整して、そのままの音量でオーケストラの演奏を再生すれば、とても小さな音に聴こえることになります。

音声波形に対するコンプレッション操作の概念図

 デジタル録音した音声データに対してコンプレッサーによってダイナミックレンジを意図的に狭めた上で、全体を拡大することで平均的な音量を大きくすることは可能ですが、レコードに記録されていた本来の音声波形は歪められてしまい、曲の印象が変わってしまいます。
 こうした特性を理解した上で、敢えて携帯音楽プレーヤー用に聴感音量を大きくすることは可能ですが、むしろ楽曲ごとに携帯音楽プレーヤーの音量を調整することが望ましいと思います。

 確かに、最近のポップスのCDの音は大きく聴こえます。そこで最近の日本の人気グループのCDからリッピングした音声波形を調べてみました。

音声波形とクリッピング

 図からわかるように、平均的な音量が大きく、更にベージュ色で示した部分ではクリッピングが生じて音声波形が潰れています。
 確かに携帯音楽プレーヤーで再生すると全編にわたってパンチのきいた曲になっているのですが、音声データとしては必ずしも高い品質であるとはいえない状態だと思います。

 音声データの圧縮技術はかなり改善されてきたようですが、wav形式の音声データをmp3形式のファイル形式に圧縮することで、失われてしまうデータは少なくありません。携帯音楽プレーヤーで聴くことだけが目的なので、音質よりもファイルの大きさを小さくするほうが重要だという場合もあるかもしれませんが、wav形式からmp3形式に変換することは出来ても、mp3形式からwav形式に変換しても音質が改善されることはありません。出来るだけwav形式で音声データを保存しておくことをお勧めします。


 逆に、原音を出来る限り忠実に再生することを求める要望もあります。
 例えば、「アナログレコードと音楽CDはどちらの音質が良いか?」という議論を見ることがあります。これは絶対的な評価の出来ない問題だと思います。
 理論的にはアナログ音声データは無限の自由度を持っているのに対して、通常の音楽CD ではサンプリングレート44.1kHz、量子化ビット数16bitという値で制限されているから「アナログレコードの方が高い表現力を持つ」と言うこともできます。
 しかし、アナログレコードを完璧な表面状態で管理し、クリーンルームの理想的な環境で再生したとしても、レコードプレーヤーの能力やコンディションによって再生音は大きく変化します。これに対してCDであれば、データの読み取りにおいて差が出ることはありません。音声データの増幅とスピーカーが同一であった場合、果たしてレコードとCDとどちらが原音に忠実かを絶対的に判断することは難しいのではないかと思います。
 私見ですが、よほど優れた再生機器と再生環境がある場合を除いて、平均的なオーディオ環境では一般的に言ってCDの方が良好な音楽再生が期待できるのではないかと考えています。

 デジタル音声データについて、電子機器の進歩によって音声データの規格を更に精緻化する事も考えられています。DVDメディアの登場で、ディスクに記録できるデータ容量は飛躍的に大きくなりましたので、ハード的な条件は既に整っています。しかし、果たして96kHz、24bitで記録した音声データと現在の44.1kHz、16bitの音声データを聴感的に明らかに異なる音質であることを表現できるオーディオ環境があるのかどうか、疑問です。例えば 17inモニターに4Kの解像度が必要かどうか・・・。あまりメーカーの戦略に惑わされずに、自分の耳を信頼すべきだと思います。


 最後に、簡単なサンプルを示しますので、お聴きください。

 ソースは1965年5月17日録音、Blue Note ST-84195 “MAIDEN VOYAGE/HERBIE HNCOCK”です。


 このレコードのタイトル曲をデジタル録音しました。音声波形の出だしの一部(0秒〜0.095秒)を下の図に示します。
ビットレートと音声波形
 この約0.1秒間の音声波形の振動数(確認できる極大値=音声波形の山のピーク数)は20波程度です。サンプリングレートは44.1kHzですから、1波当たりの平均的な時間方向の分割数は次の通りです。

20÷(44100×0.095)≒1/209.5

サンプリングレートは十分細かいと言えるでしょう。また、量子化ビット数による音声波形の形状の違い=音質の違いはこの波形を見る限り、出だしの信号レベルが非常に小さい部分を除いてほとんど無いと考えてよいでしょう。
 以下にレコードからデジタル録音した出だしの1分間の音声データ(無編集の生データ)と、比較のために、同じレコードをCD化して販売された音楽CDからのリッピングした音声データを紹介します。レコードにプレスされた音声データとCD化されたデータが同じマスタリングである保証はありませんが、あくまでも参考として聴き比べてください。

44.1kHz,16bit録音データ

44.1kHz,24bit録音データ

CDリピング
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